もしあなたがアパート経営をしているのであれば、法人化することで大きな節税効果が期待できます。節税効果を得ることができれば、さらなる設備投資に力を注ぐなど、新たなステージに進むきっかけを掴むことにもなります。ただし、節税効果の恩恵を受けることができるのは、不動産所得とその他の収入を合わせて年収が1600万を超える場合であることがほとんどです。
そこで本記事では、アパート経営法人化における節税効果の具体的な内容についてひとつひとつ丁寧に解説していきます。それに加えて、アパート経営法人化を考えている方にとって必要なすべての情報をご紹介しますので、ぜひ今後の参考にしてみてください。
不動産投資体験談
目次
1.年収1,600万を超えたら法人化するべき理由
給料と家賃収入の合計額が年収でおおむね1,600万円を超える規模になる場合は、法人化するべきでしょう。なぜならば法人化することによって、大きな節税効果を得ることができるからです。
そもそも、個人所得に対する税率と法人の所得に対する税率は異なります。収入がおおむね1,600万円を超えると法人と個人の税率の差が逆転し、結果的に節税効果を見込むことができるのです。具体的には、法人で物件を所有しておいた方が、7%~17%ほど税率が低くなると想定できます。
以下より、個人および法人の場合の税率表を載せますのでご参考ください。ただし、状況によっては課税所得額が変更になるケースがあります。たとえば、専業大家さんの場合と兼業大家さんの場合で課税所得額が変更になるケース、家族構成に基づいた所得控除の金額によって課税所得が変更になるケースがあります。ですので、以下の表はあくまでも目安であるとご理解いただけたうえで参考にしてみてください。
※年収1,600万はあくまでもおおむねの基準値です。最終的な法人化の判断はお近くの税理士事務所にご相談することをお勧めいたします。
2.アパート経営法人化の5つのメリット
法人化することで以下の5つのメリットが得られます。
2−1.所得税の軽減
給料と家賃収入の合計額が1.600万円を超える場合は法人化することによって所得税の軽減が期待できます。その大きな理由は、個人と法人では所得税に対する税率が異なり、年収1,600万円を分岐点として個人と法人の所得税額が逆転するからです。おおよそですが、売り上げに対する内訳は以下のように異なります。そもそも課税所得の割合が軽減するからこそ法人化することで所得税が軽減されるということです。
ちなみに、法人化することによって、給与所得控除を受けることも可能です。
<給与所得控除とは?|Wikipedia >
給与収入から控除される給与所得控除額は、実際にかかった必要経費の額ではなく、給与等の収入金額に応じて算定される。いわゆる概算経費控除である。
かんたんに言うと、給与に対して所得の控除が行われるということです。法人化する場合は、「自身の給与を法人から受け取る」という形にすることによって、給与控除を活用することができるのです。
たとえば、役員報酬を年収500万円に設定した場合、おおよそ150万円ほどの控除を受けることができます。それに比べて個人事業の場合だと青色申告の年間控除として65万円の控除が受けられるだけです。以上の理由から、アパート経営を法人化することによって、所得に対する税金を軽減することができると言えます。
2−2.所得の分散(分配)
法人化することによって、役員報酬を必要経費として計上することができますが、その役員を増やすことによって所得を分散することができるのです。たとえば、妻を役員にすることによって、いままでのアパート経営における課税所得分を、必要経費(役員報酬)として計上できるようになるのです。
しかし、所得の分散(給与の支払い)ができるからといって、給料の額はいくらでも良いわけではありません。そもそも、給与額の決定には仕事の実態に伴った水準を考慮する必要があります。あまりにも過大な給与を支払おうとする場合には、税務上否認されるケースもあります。あくまでも仕事の実態に伴った許容範囲内にて給与を支払うよう注意しましょう。
2−3.相続税の軽減
法人化することは相続税の軽減にも繋がります。本来であれば全額オーナーの個人所得となるところを会社の所得とし、給与としてオーナーや役員(子や孫などの家族)に分配することで、オーナー個人の金融資産が抑えられることになります。それは結果的に、オーナーに係る相続税を抑えられることに繋がります。
また、役員に支払う給与は全額会社の経費として取り扱える上に、給与を受け取る側は不動産所得ではないため、給与所得控除が適用されることになります。
2−4.欠損金の繰越
アパート経営を法人化(青色申告)することによって、欠損金を9年間にわたって繰り越すことができるようになります。つまり、単年度の会計が赤字となり、繰越期限切れまでの期間内に(9年間)に課税所得が黒字となった場合、課税所得の黒字と赤字を相殺することができるのです。さらには、赤字を繰り越すことで控除として取り扱うこともできるので、納めるべき法人税を安くすることもできるので節税効果も期待できます。(※税務上では赤字のことを「欠損金」と表現します)
ちなみに個人でアパート経営を行っている場合でも、欠損金(赤字)は繰り越すことができますが、期間が3年間と限定されています。それを踏まえると、法人化することによって得られる繰越のメリットは大きいと言えます。下記より欠損金の繰越が適用になる要件を4つご紹介します。
《欠損金の繰越適用要件》
①9年以内に開始した事業年度の欠損金であること
②青色申告書である確定申告書を提出していること
③欠連続して確定申告書を提出していること
④帳簿書類を保存していること
※平成20年4月1日以後終了年度から平成30年4月1日前に開始する事業年度の場合、平成30年4月1日以後に開始する事業年度については10年となる。
2−5.欠損金の還付
法人税法では「欠損金の繰戻しによる還付」という制度があります。簡単に解説すると、前期に黒字で法人税を納付した法人が、今期赤字になってしまった場合、前期に納付した法人税の還付を請求することができる制度のことです。
状況にもよりますが、数百万円単位で還付される場合もあるので、リスク回避にもつながる大きなメリットだといえます。資本金が1億円以下の法人であれば、下記の欠損金還付の適用要件を満たしていることで還付対象となりますので、ご確認ください。
《欠損金の還付適用要件》
①還付所得事業年度から欠損事業年度の前事業年度までの各事業年度について連続して青色申告書である確定申告書を提出していること
②欠損事業年度の青色申告書である確定申告書をその提出期限までに提出していること。
③上記②の確定申告書と同時に欠損金の繰戻しによる還付請求書を提出すること
参考書籍:不動産流通推進センター(2017)『不動産フォーラム21』大阪出版社
〜法人化のメリットにおける注意点〜
よく、『法人化することで融資が通りやすくなる』と言われますが、そのような事実はありません。なぜならば、そもそも融資とは「個人」「法人」というカテゴリーに対して審査がかかるものではなく、「事業の信用性」に対して審査がかかるものだからです。単に法人化することだけが審査通過の条件ではないので、アパート経営の質を向上することだけに努めましょう。
3.アパート経営法人化の3つのデメリット
法人化にあたって、以下の3つのデメリットが考えられます。
3−1.コストがかかる
法人の設立には、登録免許税などのいくつかのコストがかかります。以下より、設立時に最低限かかる費用をまとめましたのでご確認ください。
株式会社の設立手続きに必要な予算 | |
登録免許税 | 150,000円〜(資本金額×0.7%で算出できるが、下限が150,000円となる) |
定款の認証手数料 | 50,000円 |
定款の謄本手数料 | 約2,000円 |
定款に貼る収入印紙代 | 40,000円 |
合計 | 約242,000円 |
合同会社の設立手続きに必要な予算 | |
登録免許税 | 6,000円〜(資本金×0.7%で算出できるが、下限が6,000円となる) |
定款の認証手数料 | 不要 |
定款の謄本手数料 | 約2,000円 |
定款に貼る収入印紙代 | 4,000円(電子定款の場合は不要) |
合計 | 約102,000 |
また、法人化することによって、赤字でも払わなければいけないランニングコスト(税金)がかかるようになります。目安としては毎年合計70,000円かかるコストだと考えておきましょう。内訳は下記にてご紹介します。
毎年払わなければいけないランニングコスト(税金) | |
法人都道府県民税均等割 | 20,000円 |
法人市町村民税均等割 | 50,000円 |
合計 | 70,000円 |
3−2.手間がかかる
アパート経営を法人化するということは、会社の設立を行うということです。会社の設立には、「定款の作成」「登記書類の作成」「各種届け出の提出」など、あらゆる手続きが必要になるのでかなりの手間がかかるといえます。さらには事務手続き(会計処理や税務申告など)が複雑化しますので、自前でこなすことは非常に困難になります。それを解消するためにほとんどの会社は顧問税理士として契約する場合が多いのです。
ちなみに、手間だけでなく時間もかかります。法人を設立する場合、おおよそ1週間〜10日ほどの時間がかかると思って良いでしょう。時間がたっぷり確保できる方の場合だと最短1日で法人化に至るケースもありますが、基本的には1週間ほどの時間と手間がかかるものだと認識しておくと良いでしょう。
3−3.税務調査が入る割合が高くなる
個人の場合だと、たとえ所得税の課税漏れがあったとしても相続税によって課税漏れを補填できる場合があります。ただし法人税の場合だと、個人のように課税漏れを補填できる税制度がないために、厳格な税務調査が行われる傾向にあります。
それに加えて、法人の方が税務調査を受ける回数が増える傾向にあります。なぜならば、法人の方が事業規模が大きくなるケースが多いので、それに伴って税務署としても重点的に調査する必要があるからです。ちなみに、税務調査の回数が増えるのに伴って手続きの回数も増えますが、その場合、税理士に支払う顧問手数料もやや割高になることも想定できます。そのため、税務調査が入る割合が高くなることのデメリットはコスト面にも影響すると考えてよいでしょう。
ちなみに、事業を真っ当に運営することは当たり前のことです。正しく経営をされているのであれば、これらはデメリットにはなりませんので、あくまでも一つの知識として抑えていただければと思います。
4.法人化するまでの5つのステップ
アパート経営を法人化する場合は、以下の5つのステップを踏む必要があります。
①法人の種類を決定する
②定款(ていかん)を作成する
③登記書類を作成する
④法務局で設立登記をする
⑤税務署等に開業の届け出を提出する
アパート経営とはいえども、踏むべきステップは一般的な会社設立とほぼ同様です。準備するべき資料や手間が多少かかりますが、ぜひこの5つのステップを攻略してアパート経営の法人化を進めましょう。
4−1.法人の種類を決定する
法人の種類には大きく分けて「株式会社」「合同会社」「合名会社」「合資会社」の4つがあります。「合名会社」と「合資会社」は、無限責任社員が必要になるので、あえてここで選択する必要はないでしょう。コスト面や手間を考慮すると「合同会社」を選択することをおすすめします。
<無限責任社員とは?|コトバンク>
会社に対して無限に責任を負う社員のこと。会社が倒産し、さらに債務を会社の財産だけでは弁済できなかった場合、無限責任社員は自己の財産を弁済にあてなければならない。
例えば、資本金が300万円の場合だと、「株式会社」と「合同会社」では以下のようなコストの差があります。規模によってはコストが変更になるケースがありますので、あくまでもひとつの例としてご参考ください。
【資本金300万円のケース】
株式会社のケース | 合同会社のケース | |
登録免許税 | 150,000円 | 60,000円 |
司法書士報酬 | 30,000円 | 28,000円 |
定款認証(電子定款) | 52,000円 | − |
印鑑カード取得 | 4,000円 | 4,000円 |
その他の諸経費 | 5,000円 | 5,000円 |
合計 | 241,000円 | 97,000円 |
参考書籍:鹿谷哲也(2013)『アパマンも法人経営の時代です』新評論
株式会社と比べて、合同会社を選択するメリットは大きく分けて以下の3つです。
■設立費用が安い
上記例の場合、株式会社設立に比べて144,000円もコストが安く済みます。
■役員給与の配分が自由
株式会社の場合、出資比率に応じて報酬額が決定する場合がほとんどです。それに対して合同会社は、出資額を気にする必要がありません。最低1円だけでも出資してもらえれば、社員になってもらうことが可能です。社員になってもらうことができれば、給与の分散が自由になります。
■手間が少ない
株式会社の場合だと、株主総会の実施や決算公告といった義務が発生します。それに比べて合同会社はそういった義務が少なくなります。
上記のメリットも踏まえて、アパート経営を法人化する場合は「合同会社」として法人化の手続きを進めるようにしましょう。
※以下より「合同会社」として法人化すること想定して解説していきます。
4−2.定款(ていかん)を作成する
次に定款を作成する必要があります。定款とは以下のように定義されています。
<定款とは?|Wikipedia>
定款(ていかん)とは、社団法人(会社・公益法人・協同組合等)および財団法人の目的・組織・活動・構成員・業務執行などについての基本規則そのもの(実質的意義の定款)、およびその内容を紙や電子媒体に記録したもの(形式的意義の定款)である。
ざっくり言うならば、会社の基本的な規則を書いたものです。別名「会社の憲法」とまで言われています。定款は会社を設立する際に必ず作成しなければいけません。
定款を作成する際のポイントはこちらの「合同会社の定款作成法:穴埋めするだけで作れる雛形と項目の解説」で詳しく書かれていますのでぜひご確認ください。
4−3.登記書類を作成する
定款の作成が済んだら、次に登記書類の作成を行います。合同会社を設立する場合は、主に以下の6つの書類を揃える必要がありますので、それぞれご確認ください。ちなみに株式会社の場合だと最低でも9つの書類を揃える必要があります。
■設立登記申請書(申請書+登記すべき事項を記した用紙+登録免許税貼付台紙)
■登記用紙と同一の用紙
■定款2部(会社保存用と法務局提出用の2部)
■代表社員の印鑑証明書
■印鑑届出書
■払込証明書
登記書類は法務局に提出する大切な書類です。記載漏れなどのミスがないようにひとつひとつ丁寧に準備していきましょう。
合同会社として法人化する場合の、登記書類の作成方法はこちらの「合同会社の設立に必要な書類のリストとそれぞれの書類の作成手順」にステップ形式で記載されていますので、ぜひご確認ください。
4−4.法務局で設立登記をする
必要な書類が用意できたら、法務局で登記を行います。ちなみに、会社の設立日は法務局で書類を申請した日となりますので、慎重に日時を決めると良いでしょう。
ちなみに会社を登記する場合は以下の3つのパターンを選択できます。
① 法務局で登記する方法
② 郵送で登記する方法
③ オンラインで登記する方法
また、設立登記を行う際は、必ず守っておくべきルールがありますので、下記よりご紹介します。
■代表取締役が実行する
会社設立の登記申請は、原則的に代表取締役が実行しなければいけません。合同会社の場合は、代表社員が行うことになります。
■本店所在地を管轄する法務局で実行する
あなたの会社の所在地を管轄する法務局で実行する必要があります。もし、管轄外の法務局で申請をしてしまった場合、書類を一から作り直すことになってしまいます。管轄の法務局を事前にミスなく探すためにも、「法務局の管轄のご案内」をチェックしておきましょう。
■払込証明書作成から2週間以内に実行する
会社を設立する以上は、登記をすることが義務化されています。そのため、会社登記の申請は、払込証明書の作成日より2週間以内に実行しなければいけません。もし遅れてしまった場合、100万円以下の過料を徴収されてしまうこともありますので、必ず2週間以内には登記の申請を済ませましょう。
具体的な手続きの流れは、「会社登記の具体的な手順と必ず抑えておくべき6つの注意事項」に書かれていますので是非ご確認ください。
注意点
法務局の業務取扱時間は平日の8:30〜17:15となります。平日お勤めの方は事前に休暇を取らなければいけないので注意が必要です。管轄により法務局の取扱時間などの詳細が異なる場合がございますので予めご確認ください。
4−5.税務署等に開業の届け出を提出する
税務署及び、都道府県に対して届け出る書類のうち、最低限必要な書類を4つご紹介します。ちなみに、各書類の記入と押印が済んだら、一部ずつコピーを取るようにしましょう。なぜならば、コピーを持っていくことで、税務署がコピー書類に日付印を押してくれて、それを控えとして持ち帰ることができるからです。
①法人設立届出書
設立届出書は、今回設立した会社の概要を税務署に伝達するための書類です。これは、設立から2ヶ月以内に提出しなければいけません。
②青色申告の承認申請書
青色申告制度の適用を受けるための申請書です。適用を受けるためには設立から3か月以内の提出が必要です。
③給与支払事務所等の開設届出書
役員と従業員に給与を支払う予定であれば、この届け出を提出する必要があります。アパート経営において役員への給与支払いによる節税効果のメリットが非常に高いので、この書類は必ず提出しましょう。
④厳選所得税の納金の特例の承認に関する申請書
給与を支払う従業員が10名未満の小さな会社の場合、源泉徴収の納付を、7月10日までと、1月20日までの年2回にまとめてできる特例が設けられています。その特例を適用させるために必要な書類が本申請書です。
上記にて最低限必要な4つの書類の概要を紹介しましたが、具体的な書類の書き方及び手続きの流れは、こちらの「会社設立後に必ず届出しなければいけない書類とその作成法まとめ」をご覧ください。
以上の5つのステップが法人化するまでの一連の流れです。準備するべき書類だけでなく、手続きの回数も多いですが、法人化をするためには必要なステップです。この5つのステップを参考にアパート経営の法人化を進めてみてください。
5.節税を深く知ることのできるオススメ記事3選
不動産投資と節税の関係性をより深く知りたい方はこちらをご覧いただくことをおすすめいたします。
■家賃収入に税金はどれくらいかかるのか?税金計算から確定申告まで
そもそも税金はどれくらいかかるものなのか?その計算方法を紹介しております。詳細な税金の額を知りたい方は是非チェックしてみてください。
税金の支払いには確定申告が付きものです。不動産投資における確定申告のステップをご紹介していますので是非ご確認ください。
6.まとめ
法人化をすることで、節税を中心にあらゆるメリットを感じられることでしょう。しかし大前提として、あなたにとって法人化が必要か否かの判断ができることが大切です。
ぜひ、本記事をアパート経営法人化の判断に活かしていただけますと幸いです。
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