「この物件の価格、本当にこのくらいなのかな?」
不動産の「適正価格」は様々な要素で決まりますが、価格を算出する代表的な方法は3種類あります。
「原価法」「取引事例法」「収益還元法」です。
原価法 | 「ゼロから建て直した場合、幾らかかるか」から算出 |
取引事例法 | 「似た不動産の周辺相場がどのくらいか」から算出 |
収益還元法 | 「その不動産から期待できる収益」から算出 |
中でも、収益物件の価格を評価する上で、収益還元法は外すことができない方法です。
この方法で算出された価格を「収益還元価格」といい、たとえばこんな数式を埋めていけば計算できます。
「うわ!面倒くさそう!」と思った方はご安心ください。
この記事からダウンロードできるエクセルファイルさえ使えば、簡単に収益還元価格を算出できます。
極論をいえば収益還元法のことをよく分からないままでも、価格が出せます。
やることは、物件の売買資料や、各種ホームページから、最低限必要な数字を枠に入れていくだけです。
もちろん、理屈を理解しておくに越したことはありません。
収益還元法には、「直接還元法」と「DCF法」の2種類がありますが、
ひとまずは計算式が分かりやすい直接還元法の考え方を覚えておくべきでしょう。
慣れれば瞬時に頭の中で価格が妥当かどうか算出し、意思決定のスピードを速められるからです。
この記事を最後まで読んで、収益還元法をマスターしていただき、エクセルファイルを自分なりに活用してみてください。
不動産投資体験談
目次
1. すぐに使える!収益還元法で不動産価格を計算するシート
面倒くさい計算が苦手な人もご安心ください。収益還元法で不動産価格をすぐにでも計算できるシートを利用できます。
1-1. 今すぐダウンロード!価格計算エクセルファイル
このシートは、東京23区の駅10分圏内に所在する収益不動産の売買情報をもとに、その価格が妥当なのかを、収益還元法でおおまかに算出するためのツールです。
1-2. エクセルファイルの使い方と実例
基本的には、入力枠の中に必要な数字を入力していくだけです。
1. 検討中の物件の以下の項目を入力する
(ア) 物件価格
(イ) 見込みの年間家賃収入
(ウ) 年間の管理費・修繕積立金分担金
(エ) 年間の管理代行手数料
(オ) 見込みの固定資産税・都市計画税額
(カ) 取引態様を選択する
2. ポータルサイト(見える賃貸経営)を用いて以下の項目を入力する
(キ) エリアの平均利回り
これらの数字を入れると、一目で「割安」なのか「割高」なのかが分かるのが、このエクセルです。
提示されている物件価格(+仲介手数料)と、同一エリアで期待される利回り(※還元利回り)から算出した推定の物件価格。
この差額を、自動的に算出しています。
実際に収益物件検索サイトで掲載されている物件の例で、価格が適正なのかどうか見極めてみましょう。
まずは(ア)~(ウ)の数字を物件概要資料から拾って入力します。管理費や修繕積立金は月額で記入されている場合、年額に直して合算して入力しましょう。
(エ)は記載がありません。これは管理を任せる賃貸管理会社によって異なります。今回は仮に3,000円とします。
(オ)も記載がありませんので、概算値として、5万円としましょう。
(カ)は「仲介」を選択します。
(キ)では、HOMES「見える!賃貸経営」からエリアの想定利回りを調べて入力します。
この物件が所在する文京区の想定利回りは5.1%でしたので、これを入力します。
物件概要によれば、表面利回りは5.29%ですので、平均よりも収益性が高く、オトクな物件に見えますよね。
ではエクセルの計算結果を見てみましょう。
収益還元法で算出された価格は、1,527万円でした。
検討中の物件価格は、資料上は1,700万円ですが、仲介取引のため物件価格の3%+6万円が仲介手数料としてかかります。
よって、取得に必要な総額は1,757万円となります。
※その他、物件の購入にはローン事務手数料や登記関連の費用がかかりますが、ここでは割愛します。
よって、エリアの想定利回りからの推定価格に比べて230万円割高な可能性があることが分かりました。
是非、ダウンロードして、あなたが検討中の物件でも試してみてください。
2. 不動産のプロが用いる収益還元法の考え方
不動産のプロは収益還元法を活用して不動産価格を算出することで、割高な物件を購入するのを防ぎ、より割安で優良な物件を見つけています。
収益還元法の考え方をしっかり学ぶことで、投資家として適切に不動産の価格を見極める力が付くはずです。
2-1. 小数点以下と侮るな!直接還元法による計算方法とポイント
不動産から発生した年間の手取り収益を、その不動産から期待できる収益の割合である期待利回り(還元利回り)で割り戻すことで不動産価格を決定する手法です。
計算式は簡単ですが、実は奥が深いのは期待利回りの設定の仕方です。
たとえば、あなたが年間家賃収入100万円、年間経費20万円の収益物件を検討しているとしましょう。
周辺の不動産の期待利回りが5%だとすれば、算出される価格は1,600万円です。
何かの要因で相場が変わり、仮に期待利回り4.5%になったら、1,778万円が妥当な価格となります。
たった0.5%の期待利回りの差で、価格が178万円も違ってくるのです。
1章でエクセルを用いて算出した価格も、エリアの期待利回りをより詳細に分解していくことで、変動します。
たとえば築年数が経つほど、概して物件価格は低下するため、期待利回りは高まります。
エリアの平均築年数より物件が新しいのであれば、一見「割高」に見える算出価格が妥当という可能性もあります。
このような場合は、なるべく近い条件の物件の取引事例から平均利回りを探ることで、精度を高めることができます。
2-2. DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)による計算方法
直接還元法の弱点は、不動産から得られる収益の「価値」が将来にわたって一定であるという前提で計算されていることです。
一方、ディスカウント・キャッシュフロー法(DCF法)は「未来に得られる100万円は、今すぐ得られる100万円よりも価値が低い」という前提で計算する手法で、より厳しく現実的なシミュレーションになります。
将来得られる収益を現在価値に割り引いて計算し、それらの合計を価格として算出します。
現時点の期待収益を、経過年数に応じて「割引率」を用いて、割り出します。将来収益の現在価値は、先になればなるほど小さくなります。
これを計算式で表すと、複雑ですがこのようになります。
精緻な判断が求められるプロの不動産投資家や機関投資家は、DCF法を活用して、不動産価格を分析しています。
とはいえ、計算に用いる数値には変動する要素が多く、いわゆる「相場観」も要することから、初心者の個人投資家が活用するのは難しいのが事実です。
まずは直接還元法の考え方を理解し、DCF法については初心者からのステップアップを目指す段階で勉強を始めても、遅くはありません。
3. 収益還元法だけで考えると物件選びは失敗する
収益還元法で価格が妥当と判断した物件は、本当に「買うべき」物件なのか。
残念ながら、それだけでは確信を持って購入を推奨できるとは言えません。
たとえば、エリアの賃貸需要は計算では考慮されていません。
空室率が低い都心の物件であれば、想定利回りと近しい形で利益を得られるかもしれません。
ところが空室率が高い地方郊外のエリアで勝負してしまうと、実質収入は少なくなり、利回りは机上の空論になってしまいます。
直接還元法の場合はさらに、将来にわたって家賃が一定であるという前提での計算となっています。
実際には築年が経つにつれて、家賃は下落する傾向にあります。
また、ランニングコストである管理費や修繕積立金は、途中で増減する可能性が高いです。
管理の状況も、長い期間のなかでどのように変化するかは現時点では分かりません。
表面利回り、価格、期待利回り、といった数字だけを見て判断することなく、物件にかかわるあらゆる要素を踏まえて、投資判断を行うことが大切です。
まとめ
まずはエクセルを活用し、投資判断の参考として役立ててみてください。
物件を検討するなかで、ゆっくりでも収益還元法の考え方を理解していきましょう。
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