「1年のうちに3億円の資産を作りました」
アパート経営の書籍でよく目にするキャッチコピーですが、大きな誤解を生んでいます。それは、借金を資産と間違えていることです。庭の家計や企業の財務状況を把握するバランスシートで見ると一目瞭然です。
バランスシートの左側には「資産」、右側の上に「負債」、右側の下に「※1 純資産」を書きます。
※1 資産 ‐ 負債 = 純資産
アパート経営をバランスシートで考えてみましょう。
わずかな頭金を用意して、残りは全てローンでアパートを購入した場合、バランスシートの左側が「アパート」、右側の上が「ローン」、右側の下に「※2 頭金」になります。
※2 アパート ‐ ローン = 頭金
すべてローンで買っても、バランスシートの左側には資産と書かれます。これで、資産を手に入れたと勘違いをしているのです。実際は、多額の借金を抱えてしまっていて、非常に危険な状態です。
これは代表的なアパート経営のリスクですが、他にもアパート経営には決定的なリスクがあります。
この「アパート経営は失敗する7つの理由」は、今の生活に満足できず、行き詰まった閉塞感から抜け出すため、アパート経営を考えているあなたに向けて書きました。
まずはリスクを把握して、それでも納得できてからアパート経営を始めてください。
不動産投資体験談
目次
1.アパートとマンションの違い
法律上『アパート』と『マンション』の違いを明確に定められてはいません。
ただ、不動産業界の慣習としては、建物の構造を基準として以下のように使い分けされています。
・アパート…木造、プレハブ、軽量鉄骨
・マンション…鉄筋鉄骨コンクリート造、鉄筋鉄骨コンクリート造、重量鉄骨
この記事では、木造の建物をアパートと定義しています。
2.アパート経営は失敗する7つの決定的な理由
2-1.立地の問題
もしあなたが本気でアパート購入を考えているのなら、一度、具体的な物件情報を紹介してもらってください。そして、紹介されたアパートの周辺をくまなく歩いて見てください。
すると、空き地、駐車場、農地、使われていない倉庫や工場といった土地がアパート周辺にたくさんあることに気がつくはずです。
ほとんどのアパートが人口が減少しつつある郊外や地方に建っています。こうした土地が賃貸経営に向いていると思わないはずです。
2-2.購入資金の問題
中古でも都心のアパートなら、安くても5000万以上します。それも、歩いて20分以上がかかる場所に建っています。それこそ、都心の駅周辺にもなれば、土地だけで軽く億を超えてしまいます。なかなか、個人では手が出せる代物ではありません。
ローンを組んでスタートできたとしても、全て借金を返済するまで、頼りになるのは家賃収入だけです。その間、家賃が下がらない。金利が上がらないという保証はどこにもありません。
仮に金利が上昇した場合、慌てて繰り上げ返済しても、借金の分母が大きければ、焼け石に水。ほとんど効果はありません。非常に危険な状態が何十年も続くことになります。
2-3.家賃の問題
郊外や地方は、ただでさえ賃貸の需要が不安なのに、さらに追い打ちをかけるように次々と新しいアパートが建っています。土地を所有している地主は、もうすでに自宅を持っている訳で、何かに土地を転用することを考えているからです。
やがて、供給過剰になり、空室が増えていきます。空室が増えたアパートに入居者を集めるため、家賃の値下げ競争が始まります。
あなたが借り入れして投資したアパートが、もともと土地代がタダの農家や地主と家賃競争しても勝てるはずがありません。空室が増えて、とうとうローンが返済できない、さらに修繕費用も出すことができない。そんなアパートオーナーが増えています。
2-4.見栄えや修繕費用の問題
アパートは木造のため、老朽化が早く10年経つと以前の面影がなくなり、外観がまるっきり古びて変わってしまいます。そんな古いアパートに、引っ越しを考えているような人はまず住みたがりません。外観が悪ければ、お部屋の中も見てくれません。
やがて空室が増えていきます。
借り手に敬遠されないよう、常にアパートを綺麗に見せるためには、リフォームの費用が重荷になってきます。
10年、20年経つとアパートは、屋根材や壁材の塗装もしくは張替えが必要になります。
修繕コストは1回に数十万単位、下手をすれば数百万円単位での負担です。また、部屋ごとのエアコンと給湯機の補修もかかってきます。
あらかじめ予想される修繕費について、計画的に積み立てておかなければなりません。
とはいえ2室3室と空室が増えるようになると、積立どころではなくローンの返済が重なればかなりの負担です。一方、積立をやめてしまえば、老朽化が進み、建物の寿命を縮めることにつながってしまいます。
2-5.火災や地震の問題
アパートで火災が起きた場合、1室の火災が1棟すべてに影響を及ぼし、全焼ということもありえます。いくら火災保険に加入していたとしても、保険金だけで建て直すことが出来るかわかりません。復旧期間中の家賃収入は途絶えることになります。
2013年1月、熊本市の木造アパートで火災事故が起きました。火は約3時間後に消火されましたが、木造2階建てのアパート約140平方メートルと隣接する住宅約200平方メートルも全焼させました。
アパートの1階に住んでいた熊本大学に通う学生が犠牲になるという、大変痛ましい火災事故となりました。
これがコンクリート造のワンルームマンションであれば、火災被害は部屋内で留まり、建物全体には広がる前に消化することが可能です。きちんと火災保険に加入していれば、復旧費用を差し引いても、オーナーや入居者の手元に見舞金を残すことができます。
また、大きな地震が起きたときの耐震性能も、木造アパートは鉄筋コンクリート造のマンションに大きく劣ります。
阪神・淡路大震災で建物が倒壊し、入居者が亡くなった場合には、家主がその責任を問われるケースがありました。 建物の安全性を確保していなかったとして、オーナーが遺族に損害賠償を支払ったのです。
東日本大震災以降、地震による建物倒壊や火災に強い鉄骨コンクリート造のマンションを法人社宅の条件とする企業が増えてきています。
万が一の備えとして、入居者の生命を守るため、アパートはふさわしいとは言えません。
2-6.騒音の問題
木造アパートは上下階間や近隣等への騒音問題も起きやすく、住民間のトラブルに発展することもあります。
騒音の原因が部屋や廊下で仲間と騒いだり、テレビの音量が明らかに大きかったり、
騒音を出した入居者も、それを認識していれば、解決はそれほど難しいものではありません。
ただ、騒音とはいえないまでも、隣室の生活音を不快に感じられる場合はやっかいです。
話しがまとまらず、騒音がきっかけで退去していく入居者もいます。騒音が入居者にとってそれだけ大きな問題ということです。騒音トラブルを解決して、入居者の住環境をしっかり守るには、アパートでは難しいものです。
2-7.建て替えや売却の問題
アパートを建て替えようとした時、入居者の立ち退きに要する時間とコストがかかりってきます。例えば、築30年が経過したアパートに6世帯の入居者が住んでいるとします。
一人残らず立ち退きに同意してくれれば問題ありませんが、なかには、高齢などを理由に次の転居先がなかなか見つからない人もいます。
たった一人が居座るだけで、全員立ち退くのに何年もかかっているケースは、全国にたくさんあります。そうなると、ある程度の立ち退き料を支払う可能性も出てきます。
もしあなたが立て替えを前提にするならば、最初から更地を買った方がいいでしょう。
それでも古いアパートを購入する場合は、世帯全員に対して、次回の更新契約はしない旨の同意を取り付けていないとかえって大きなリスクを抱えることになります。
ただし、古くなったアパートを取り壊し更地にして売却したり、新たな物件を建てたりできるということは、将来にも土地の利用価値が残っていることが前提です。
すでに地方や郊外の土地が売れず、さらし物件となって放置されているという話は、ざらにあります。
まとめ
実際、私はアパート経営で「満足した」という声をほとんど聞いたことがありません。もちろんなかにはアパート経営で成功したという人もいるとは思いますが、地方や郊外でアパート経営をはじめ、外壁工事、階段鉄部塗装工事、室内設備修理交換などで毎年十万単位でかかる修繕負担、家賃大幅値下げ、そして絶えず空室を抱え、当初の利回りが実現できなくなった投資家をたくさん知っています。
この記事「アパート経営は失敗する7つの決定的な理由」は、つらい投資家の体験談に基づいて書かれています。
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