自殺や事件に巻き込まれる等によって入居者が室内で亡くなった場合、その物件はいわゆる「事故物件」とされます。
大変痛ましいことですが、一方で賃貸不動産のオーナーが気になるのは、入居者が亡くなった場合、「どのようなケースで」「いつまで」伝えるべきなのかということでしょう。
さらに、現在の賃貸契約はどうなるのか、滞納していた場合の滞納家賃の取扱い、また次の入居者募集する際の家賃、売却する際の資産価格にどのような影響が出てくるのか。
実際に当社が管理するワンルームマンションでも年に数件、室内でお亡くなりになるご入居者様がいらっしゃいます。その多くが持病の急変や心筋梗塞、脳梗塞など兆候がなく突然お亡くなりになるケースです。
そこで、この記事では入居者が室内で亡くなられた後の告知義務の範囲と期限、そして、資産価値に対する影響について解説していきます。
不動産投資体験談
1. 事故物件の定義、告知義務の対象
入居者が室内で亡くなった場合のすべてのケースで事故物件となり、告知義務が発生するわけではありません。告知義務の対象となるかは、おもに心理的瑕疵(負担)の有無によって次のように大別されます。
判断の基準とされる「心理的瑕疵の有無」は、言い換えれば、契約前(賃貸および売買)にその事実を知っていたのであれば、契約をしなかったであろう事実のことを指します。
賃貸 | 売買 | |
自殺や事件性のあるもの | 告知義務あり | 告知義務在り |
自然死(病死など) | 原則告知義務なし | 告知義務あり |
1-1.自殺や事件性のあるもの
自殺や事件性のあるものについては、ほとんどの方にとって契約締結の意思決定に左右する重要な要素であるため、自身で物件を購入する際はもちろん、短期の賃貸であっても告知義務の対象となりえます。
1-2. 自然死(病死など)
ご逝去の理由が「自然死」であった場合の告知義務の対象の判断は「賃貸」と「売買」で異なります。
賃貸の場合であれば、自然死は「重要な事項」としての判断基準である「心理的瑕疵に該当するとはいえず、告知義務の対象とされないのが一般的です。ただし、家族で住まわれるようなケースでは、長期の入居が想定されることから、自然死であっても告知の対象となることがあります。
なお、ご逝去に気づくまでに時間がかかり、室内の損耗が目立つ場合には、単身用の賃貸物件であっても、告知対象となる可能性があります。
一方で、実需として居住目的で購入される場合、自然死であっても、契約締結の重要な判断基準となるため、知り得た事実は告知することが一般的です。
1-3. 告知義務違反は損害賠償責任に問われる
過去には前入居者が自殺したことを入居希望者に告げずに契約した場合、損害賠償責任を問われることがあります。
自殺マンション告知せず「賃貸は不法」 家主に約104万円賠償命令 地裁尼崎支部
自殺があった兵庫県尼崎市のマンションの部屋であることを告げずに賃貸したのは説明義務違反として、借り主の男性が家主の男性弁護士に約144万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が神戸地裁尼崎支部であり、杉浦一輝裁判官が弁護士に賃料や慰謝料など計約104万円の支払いを命じていたことが29日、わかった。判決は28日付。
判決によると、弁護士は平成23年5月2日、尼崎市内のマンション一室を競売で取得。直後に住んでいた女性が自殺したが、昨年8月、この事実を説明せずに男性と賃貸契約を結んだ。男性は同月末に入居したが、近所の住人から女性が自殺していたことを聞き、翌日に退去。9月20日に契約解除通告をしていた。
裁判で家主の弁護士は「競売後の手続きは他人に任せていて、自殺の報告を受けないまま部屋の明け渡し手続きを終えた」と主張した。
しかし、杉浦裁判官は判決理由で、住人らが女性の自殺を認識していたことなどを挙げて「部屋には嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的な欠陥という瑕疵(かし)がある」と賠償責任を認めた。
心理的瑕疵は、契約者の感情によって左右される基準でもあるため、なにをもって「心理的瑕疵」があるのか明文化することは困難です。
そのため、裁判によって争われた事案も多く、「心理的瑕疵」の基準もいくつかの判例から読み解くことができます。次章では判例から告知義務の期限について説明していきます。
2. 過去判例から読み解く告知義務の期限
室内で前入居者が自殺された事実は、賃貸借契約時に重要事項として告知義務がありますが、問題は『いつまで告知を続けるのか』ということです。賃貸の場合と売買の場合で、それぞれの告知期限が異なります。
2-1 ≪賃貸≫ 原則として次の入居者まで
告知期間についての過去の判例ではおおむね事故後2年~3年で心理的瑕疵が薄まり、告知義務もなくなると判断しています。
・平成13年11月29日 東京地裁
事故があったことは2年程度を経過すると、瑕疵と評することはできない。
・平成19年8月10日 東京地裁
事件後の最初の入居者には告知すべき義務あり。その後、事件後の最初の入居者がごく短期間で退去したといった特段の事情がないかぎり、その後の入居者に対しては告知義務はない。
・平成27年9月24日 仙台市内
事件後、同居人が引き続き3年入居の後、退去 → 最初の入居者には告知すべき
・平成29.12.13
事件後の最初の入居者が通常の賃貸者期間を経過して退去した場合は、本事件を告知する義務があると解すべき理由もない。
判例にもあるように、前入居者が退去した後、1カ月等ごく短期間に不動産会社の社員が契約したとしても、次の入居者への告知義務がなくなるということはありません。
2-2 ≪売買≫ 事実を知りえる限りは伝える
居住目的の購入の場合、自殺や事件性のあるものはもちろん、自然死であっても契約の意思決定に重大な影響を持つことから、その事実を知り得た場合は以後の購入者にも継続して伝えることが必要です。
また、自殺や事件等で亡くなった場合では、そこから年数が経過していたとしても、告知せずに契約を行ったことで、契約行為について裁判で争われたケースも多くなっています。
・平成29年5月25日 東京地裁
(概要)
賃貸目的の土地の建物の売買において、10年前の自殺事故の不告知を理由として、買主が違約解除を求めた原審判決を不服として売主が控訴
(経過)
原審は、10年の経過によって自殺に対する嫌悪感が法的保護に値しないものとは言えないとして、買主の解約を認めた。その後、売主が判決を不服として控訴、その後、売主・買主は売買契約の合意解除で和解。
・平成26年6月19日 高松地裁
(概要)
土地の売買において、20年前にその土地上の建物で自殺があったこと等を、契約後決済前に知った媒介業者が買主に説明しなかったことが不法行為にあたるとされた事例
(事案)
決済後に近隣の不動産会社より本事件を知った買主は、契約解除を申し出たが応じてもらえなかった。そのため説明義務違反を理由に損害倍書を請求した。
(結果)
媒介業者に対する慰謝料150万円を認容した
3. 資産価値への影響 家賃と売却価格は1割~2割減となる
3-1 募集家賃は10%~20%程度の低くなる
室内で入居者がお亡くなりになった場合、次の入居者を募集する際の家賃は相場から10%~20%程度安く設定します。
寿命やご病気でお亡くなりになることは自然の流れではありますが、一般的には「死」からはできるだけ遠ざかりたいと思われる方が一般的です。それが良い悪いではなく感覚的に思われる方が大半です。
そのため、お部屋をすっかりきれいにリフォームしていたとしても、次の入居者を募集する際には通常の家賃設定では苦戦することが多くなるため、家賃は相場よりも割安にします。
当社でも室内で入居者がお亡くなりになったお部屋を募集することがありますが、おおむね相場家賃の10%~20%程度低く設定することで、通常のお部屋と同じ期間で空室を解消することが可能です。
3-2 売却価格も1割~2割減になる
事故物件の不動産を売却する場合、おおむね相場価格の1割から2割程度は価格を安く設定することになります。ただ、お亡くなりなった内容によっては、相場価格やら大幅に減額することが必要なケースがあります。
過去には火災によって家主がお亡くなりなったマンションの仲介を取り扱った経験がありますが、相場価格は2,000万円のところ、半額に下げて売りに出しましたが買い手はつきませんでした。最終的には700万円に価格を引き下げて、他の不動産会社が購入したことがありました。
4. 事故物件に関するよくある質問
Q1 事故物件の定義は
事故物件にあたるかどうかは、心理的瑕疵(しんりてきかし)の有無によります。
心理的瑕疵は、契約において心理的に抵抗が生じる恐れのある事項をいいます。
具体的にはその事実を知った場合に、不動産にかかわる契約締結に与える影響の度合いが大きさによって判定されます。ただ、人によってその程度は異なりますので、3章で取り上げたような様々な判例で基準が示されています。
不動産における代表的な心理瑕疵事例は次の通りです。
・自殺、他殺
・事件、事故による死亡
・暴力団、宗教、危険物を取り扱う工場施設等が周辺にある
Q2 病死は告知対象となるのか
賃貸 と売買で取り扱いが異なります。
単身用の賃貸の場合、病死された入居者の発見が遅れた等の特段の事情がない限り、対象はならないケースが一般的です。
ファミリー向け賃貸の場合、入居期間が長期にわたることが想定されるため、まわりの住民も入れ替わりが少ないため、病死であっても告知の対象となることがあります。
一方、不動産売買の場合では、たとえ病死であってもその事実を知り得た場合には、告知の対象とすべきでしょう。
Q3 いつまで告知し続けるべき
単身用ワンルームの賃貸の場合は、自然死(早期発見時)の場合は次の入居者までとなるのが一般的です。なお、ファミリー向けの賃貸物件の場合、Q2と同じ理由から継続して告知をするべきでしょう。
売買の場合は、原則として「時効」はありません。
Q4 売却価格、賃料はどれだけ下がる
賃貸の場合、次の入居者の家賃は1割から2割減が相場です。
売買の場合もおおむね1割から2割減となりますが、ケースによっては半額にしても買い手がつかないこともあります。
Q5 隣室やマンション内の自殺も告知義務の対象となるのか
隣室やマンション敷地内の自殺も告知義務の対象となります。
まとめ
事故物件については、単身用ワンルームの賃貸の場合では次の入居者までが一般的です。その他の賃貸や売買の場合は、継続して告知を続けるべきでしょう。
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